戦争を考える漫画「特攻の島」
今回は大人にこそ読んでほしい漫画の一つを紹介したいと思います。
佐藤秀峰「特攻の島」
そのタイトルや表紙絵からも分かるように、戦時中の特攻隊を題材にした漫画で、実在の資料などをもとにした作品です。
ストーリー
舞台は昭和19年、戦時下の日本。
当初優勢だった日本軍もやがてアメリカ軍の猛攻により各地での劣勢が目立ち始め、軍の上層部は一刻も早い打開策を求められていた。
そのような状況で生まれた起死回生の新兵器こそが、人が搭乗して操作する魚雷「回天」と、それらを操縦する特攻部隊「回天隊」の結成だった。
一度発射されれば二度と生きて帰ることの叶わない、生存率0%のその部隊に志願した、まだ10代の若者たちは、訓練のため、とある島に集められる。
福岡から来た、絵を描くことが好きな少年、渡辺裕三もその1人だった。
しかし、渡辺は覚悟を決めていながらも、心のどこかでこの作戦に疑問を持っていた。
それでも無常にも月日は流れ、少年たちは1人また1人と回天で出撃し、その身を犠牲にしていく。
はたして渡辺はこの極限状態の日本で何を見るのか・・・。
登場人物たちの想い
渡辺はとにかく真っ直ぐな少年です。
そんな真っ直ぐさから、皆の前で「回天」の考案者である仁科中尉に、「どんな気持ちで回天を作ったのか教えてほしい」と質問を投げかけたりします。
私の戦時中の、ましてや軍隊のイメージとしては、このような疑問を投げかけるような姿勢はタブーであり、粛清の対象となるようなイメージでしたが、仁科もその姿に惹きつけられ、渡辺に意志を託そうとしたりします。
この仁科も、また、自分の作った兵器に若者たちを乗せて、死なせることに対して自問自答を繰り返していました。そして、仁科は逆に渡辺に対して、「何のために回天に乗って死のうとしているのか?」と質問します。
これも、渡辺自身がずっと考えていたことです。
その前の晩、渡辺は友人の関口に「俺は死ぬのが怖い。死ぬことを恐れるのは死に意味を見いだせないからだ。そして死ぬことに意味を見いだせるのは、生きることに意味を見いだせた人間だけなのかもしれない。それができない俺は空っぽなんだ。」とこぼします。
そんな渡辺が上官である仁科に示した、回天に乗る一つの答えは「俺自身の人生を俺のものにするため」というものでした。
まとめ・感想
私がこの作品を読んで、まず感じたのは恐怖でした。
「実際に自分がこの渡辺のように、回天に乗る立場だったら」と考えると、とにかく怖いという気持ちしか出てきませんでした。おそらく、現代の日本人のほとんどは「死」というものを前にした時、私と同じような気持ちになるのではないでしょうか。
しかし、登場人物たちは、そのような状況にありながらも、必死に生きること、死ぬことの意味を考えていました。
そして、この作品は、戦時中の人達は「国のために死ね」と言われれば何も考えずに死ぬ人達だったのだろうという、私の浅はかな考えを壊してくれた作品でした。
仁科などは実在の人物で、実際に回天の考案者の1人だったようです。
上記のような作戦に対する疑問を実際に仁科自身が持っていたのかということは分かりませんが、やはり誰もかれもがロボットのように生きていたのではなく、己の中で葛藤していたということに、あらためて気付くことができたように思います。
外的な表現よりも、内面の表現を重視している作品で、もちろん漫画なので、そこには「絵」があるのですが、小説にしても良いくらいの作品だと思います。
ぜひ、大人にこそオススメしたい漫画ですね。